「大震災により破壊した東京に十億の大金をかけることは愚の至りである。世界統一のための最終戦争が近いのだから、それまでの数十年はバラックの生活をし戦争終結後、世界の人々の献金により世界の首都を再建すべきだ」といったようなことを言って、あきれられたことも覚えている。
 ドイツから帰国後、陸軍大学教官となったが、大正十五年初夏、故筒井中将から、来年の二年学生に欧州古戦史を受け持てとの話があり、一時は躊躇したが再三の筒井中将の激励があり、もともと私の最も興味をもっていた問題であったため、遂に勇を鼓してお受けすることになった。
 かくて同年夏、会津の川上温泉に立て籠もり日本文の参考資料に熱心に目を通した。もちろん泥縄式の甚だしいものであったが、講義の中心をなす最終戦争を結論とする戦争史観は脳裡に大体まとまっていたので、とりあえず何とか片付け、大正十五年暮から十五回にわたる講義を試みたのであった。「近世戦争進化景況一覧表」(一二一頁参照)はそのときに作られたのである。
 昭和二年の同二年学生に対する講義は三十五回であったが、今度は少し余裕があったため、ドイツから持ち帰った資料を勉強し、更にドイツに
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