に苦しんでいた笹村は、旅から持って帰った衣類をどこかで金に換えると、医療機械屋で電気器械を一台買って、その剰余《あまり》で、こまこましたいろいろのものを、時々|提《さ》げて帰って来た。
机を据《す》えたのは、玄関横の往来に面した陰気な四畳半であった。向うには、この新開の町へ来てこのごろ開いた小さい酒屋、塩煎餅屋《しおせんべいや》などがあった。筋向いには古くからやっている機械|鍛冶《かじ》もあった。鍛冶屋からは、終日機械をまわす音が、ひっきりなしに聞えて来たが、笹村はそれをうるさいとも思わなかった。
下谷《したや》の方から来ていた、よいよいの爺《じい》さんは、使い歩行《あるき》をさせるのも惨《みじ》めなようで、すぐに罷《や》めてしまった。
「あの書生たちは、自分たちは一日ごろごろ寝転《ねころ》んでいて、この体の不自由な老人を不断に使いやがってしようがない。」
爺さんは破けた股引《ももひき》をはいてよちよち使いあるきに出ながら、肴屋《さかなや》の店へ寄って愚痴をこぼしはじめた。
「あの爺さんしようがないんですよ。それに小汚《こぎたな》くてしようがありませんや。」肴屋の若《わか》い衆《
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