徳田秋声

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)笹村《ささむら》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)時々|枕頭《まくらもと》へ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「巾+白」、第4水準2−8−83、179−下−15]
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     一

 笹村《ささむら》が妻の入籍を済ましたのは、二人のなかに産《うま》れた幼児の出産届と、ようやく同時くらいであった。
 家を持つということがただ習慣的にしか考えられなかった笹村も、そのころ半年たらずの西の方の旅から帰って来ると、これまで長いあいだいやいや執着していた下宿生活の荒《さび》れたさまが、一層明らかに振り顧《かえ》られた。あっちこっち行李《こうり》を持ち廻って旅している間、笹村の充血したような目に強く映ったのは、若い妻などを連れて船へ入り込んで来る男であった。九州の温泉宿ではまた無聊《ぶりょう》に苦しんだあげく、湯に浸《つか》りすぎて熱病を患《わずら》ったが、時々|枕頭《まくらもと》
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