しゅ》は後で台所口へ来て、そのことを話した。
 笹村は黙って苦笑していた。
 友達の知合いの家から、じきに婆さんが一人世話をしに来てくれた。
 友達の伯母《おば》さんが、その女をつれて来たとき、笹村は四畳半でぽかんとしていた。外はもう夏の気勢《けはい》で、手拭を肩にぶら下げて近所の湯屋から帰って来る、顔の赤いいなせ[#「いなせ」に傍点]な頭《かしら》などが突っかけ下駄《げた》で通って行くのが、窓の格子にかけた青簾越《あおすだれご》しに見えた。
 婆さんを紹介されると、笹村は、「どうぞよろしく。」と叮寧《ていねい》に会釈をした。
 武骨らしいその婆さんは、あまり東京慣れた風もなかったが、すぐに荒れていた台所へ出て、そこらをきちんと取り片づけた。そして友達の伯母さんと一緒に、糠味噌《ぬかみそ》などを拵えてくれた。
 晩飯には、青豆などの煮たのが、丼に盛られて餉台《ちゃぶだい》のうえに置かれ、几帳面《きちょうめん》に掃除されたランプの灯《ひ》も、不断より明るいように思われた。
 ここに寝泊りをしていた友達と、笹村はぼつぼつ話をしながら、箸《はし》を取っていた。始終胃を気にしていた彼は燻《くす
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