に浪費されるらしい形迹《けいせき》が、少しずつ笹村に解って来た。
「新ちゃんは、いつのまにか私の莨入《たばこい》れを持って行《ある》いてますよ。」
お銀は、笑いながら笹村に言い告げた。月極めにしてある莨屋の内儀《かみ》さんが、甥の持って行く莨の多いのを不思議がって、注意してくれたことなどもあった。
机の抽斗《ひきだし》を開けてみると、学校のノートらしいものは一つもなかった。その代りに手帳に吉原の楼《うち》の名や娼妓《しょうぎ》の名が列記されてあった。妾《めかけ》――仲居――などと楽書きしてあるのは、この場合お銀のこととしか思えなかった。
「ああいう団体のなかに捲《ま》き込まれちゃ、それこそお終いだぞ。呼び出しをかけられても、今後決して外出しない方がいい。」
笹村は甥を呼びつけていいつけたが、甥は疳性《かんしょう》の目を伏せているばかりで、身にしみて聞いてもいなかった。そして表で口笛の呼出しがかかると、じきにずるりと脱《ぬ》けて行ってしまった。
「いつかの朝、顔を瘤《こぶ》だらけにして帰って来たでしょう、あの時吉原で、袋叩《ふくろだた》きに逢ったんですって……言ってくれるなと言った
前へ
次へ
全248ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング