安心していらっしゃい。」
しかしどうしても妊娠としかおもわれないところがあった。食べ物の工合も変って来たし、飯を食べると、後から嘔吐《はきけ》を催すことも間々あった。母親に糺《ただ》してみると、母親もどちらとも決しかねて、首を傾《かし》げていた。
「今のうちなら、どうかならんこともなさそうだがね。」
また一ト苦労増して来た笹村は、まだ十分それを信ずる気になれなかった。弱い自分の体で、子が出来るなどということはほとんど不思議なようであった。
「そんなわけはないがな。もしそうだったとしても、己は知らない。」などと言って笑っていた。女の操行を疑うような、口吻《くちぶり》も時々|洩《も》れた。
「私はこんながらがらした性分ですけれど、そんな浮気じゃありませんよ。そんなことがあってごらんなさい、いくら私がずうずうしいたって一日もこの家にいられるもんじゃありませんよ。」お銀も半分真面目で言った。
「お前の兄さん兄さんと言っている、その親類の医者に診《み》てもらったらどうだ。」
「そんなことが出来るもんですか。あすこのお婆さんと来たら、それこそ口喧《くちやかま》しいんですから。」
お銀は三人の
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