たごた》などを話して蒼《あお》くなっていた。お銀が逃げて来てからも、始終跡を追っかけまわしていたそこの子息《むすこ》が、このごろ刀でとかく折合いの悪い継母を斬《き》りつけたとかいう話であった。
その話には笹村も驚きの耳を聳《そばだ》てた。
「係り合いにでもなるといけないから、うっかりここへ来ちゃいけないなんてね、お蝶《ちょう》さんに私|逐《お》ん出されるようにして来たんですよ。」
「へえ。」と、笹村は呆《あき》れた目をして女の顔を眺めていた。
「私おっかないから、もう外へも出ないでおこう。この間暗い晩に菊坂で摺《す》れ違ったのは、たしかに栄ですよ。」
傍で母親は、包みのなかから、お銀の不断着などを取り出して見ていた。外はざあざあ雨が降って、家のなかもじめじめしていた。
「私は顔色が大変悪いって、そうですか。」と、お銀は気にして訊《き》き出した。
お銀はこの月へ入ってから、時々腹を抑《おさ》えて独りで考えているのであった。そして、
「私妊娠ですよ。」と笑いながら言っていたが、しばらくすると、またそれを打ち消して、
「冷え性ですから、私にはどうしたって子供の出来る気遣いはないんです。
前へ
次へ
全248ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング