わら》を買って被《かぶ》せたり、足袋に麻裏草履などもはかせた。
「どうも贅沢《ぜいたく》を言って困った。」
 笹村は帰って来ると、台所を片着けているお銀に話しかけた。
「安いもので押し着けようとしたって、なかなか承知しない。」
 甥のいなくなった家を見廻すと、そこらがせいせいするほど綺麗に拭《ふ》き掃除がされてあった。裏の物干しには、笹村が押入れに束《つく》ねておいた夏襯衣《なつシャツ》や半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83、179−下−15]《ハンケチ》、寝衣《ねまき》などが、片端から洗われて、風のない静かな朝の日光に曝《さら》されていた。
「どうもそう何でも彼《かん》でも引っ張り出されちゃ困るね。」
 笹村は水口で渇いた口を嗽《すす》ぎながら言った。
「そうですか。」
 女は鬢《びん》の紊《ほつ》れ毛を掻《か》き揚げながら振り顧った。
「でも私、疳性《かんしょう》ですから。」

     六

 笹村は机の前に飽きると、莨《たばこ》を袂へ入れて、深山の方へよく話しに行った。T―は前の方の四畳半に、旅行持ちの敷物を敷いて、そこに寝転《ねころ》んでいた。T―は長いあいだ無駄に月謝を
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