》にしなければならんがね。それは後の問題として、田舎へ引っ込むのがどうしても厭なら、一応私の方から、兄さんの方へ言って上げてもいい。私にしたところで、兄さんのしかたは少し勝手だと思う。」
しかし浅井の言ってやったことは、田舎では受け入られそうもなかった。とにかく、本人を一度よこして下さい。この手紙が着き次第すぐにも立たして下さい――そう言って兄の方から折り返し浅井に迫って来た。その手紙は、お増の前にも展《ひろ》げられた。夫婦はちょうどお今をつれて、暮の買物をしに、銀座の方へ出かけて行こうとしているところであった[#「あった」は底本では「あつた」]。新しい足袋《たび》をはいて、入れ替えたばかりの青い畳のうえをそっちこっちわさわさ歩いているお増の衣摺《きぬず》れの音が忙しそうに聞えたり、下駄を出すお今の様子が、浮き浮きして見えたりした。浅井は外出のそわそわした気分を撹《か》き乱されて、火鉢の傍に坐って、手紙を繰り返し眺めていた。
「やっぱり[#「やっぱり」は底本では「やつぱり」]返してくれと言うんでしょう。」
お増も、半襟を掻き合わせなどしながら、傍へ寄って来た。
「返した方がよござん
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