爛
徳田秋声
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)下谷《したや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大分|自暴気味《やけぎみ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「鑞」の「金」に変えて「魚」、第4水準2−93−92]
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一
最初におかれた下谷《したや》の家から、お増《ます》が麹町《こうじまち》の方へ移って来たのはその年の秋のころであった。
自由な体になってから、初めて落ち着いた下谷の家では、お増は春の末から暑い夏の三月《みつき》を過した。
そこは賑《にぎ》やかな広小路の通りから、少し裏へ入ったある路次のなかの小さい平家《ひらや》で、ついその向う前には男の知合いの家があった。
出て来たばかりのお増は、そんなに着るものも持っていなかった。遊里《さと》の風がしみていたから、口の利き方や、起居《たちい》などにも落着きがなかった。広い大きな建物のなかから、初めてそこへ移って来たお増の目には、風鈴《ふうりん》や何かと
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