すよ。」
お増は顔を顰めながら言い足した。
「田舎の人は、これだから困る。」
浅井は手紙を火鉢の抽斗《ひきだし》へそっと入れて、起ちあがった。
「それならそれで、立たす支度をしなけあならん。」
三十七
明日はいよいよお今が立って行くという日の来た時などは、浅井は外へ出てもじきに帰って来た。そこにお増が病院へ行っている留守を、お今は独りで、階下《した》の座敷で新しい自分の着物を縫っていた。静子もお今に一枚一枚縫ってもらった人形の蒲団や着物や、大きい小さいいろいろの人形の入った箱を出して、傍に遊んでいた。箱のなかにはいつもするように、屏風《びょうぶ》などを立て、人形の家族が寝かされてあった。
「女の子って、こんな時分から厭味なことをして遊ぶのね。」
お増は時々不思議そうにそれを眺めて、笑っていた。
「姉さんが帰ってしまったら、お前もう人形の着物など縫ってもらえやあしないぜ。」
寒い外から入って来た浅井は、そこに突っ立って、手袋を取りながら言った。
「嘘ですね。姉さんはじき帰って来るんですよ。」
お今は淋しげに自分を眺める静子に言いかけて、糸屑《いとくず》を払いなが
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