った。
「でも隠居は、やっぱり自分の子だと思っているらしい。私のやり方が、少してきぱきし過ぎるといった顔をしているからおかしい。」
 浅井は重い目蓋《まぶた》をとじながら、懈《だる》そうに笑った。
「あなただって、女には随分|惚《ほ》れる方ですよ。」
 お増はまだ離さずにいた莨を、浅井の口に押しつけなどした。
「ふふ。」と、浅井は今まで一緒にいた女の匂いが、まだ嗅《か》ぎしめられるような顔をして、溜息を洩らした。浅井のその女と、かなり深い関係を作っていることは、前からお増にも感づかれていたが、そんな時には、浅井の活動ぶりも、一層目ざましかった。収入も多かったし、自分のわがままも利いた。お増はその隙に、家をつめて物を拵えたり、金で除《の》けたりすることを怠らなかった。
「あまりやかましく言っちゃ駄目ですよ。遊ぶような時でなくちゃ、お金儲けは出来やしないの。」
 小林の妾などと、女同士寄って、良人の風評《うわさ》などしあうとき、お増はいつもそう言っていた。
「浮気されると思や、腹も立つけれど、きりきり稼がしておくんだと思えば、何でもないじゃないの。私はこのごろそう思っていますの。」
 お増
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