たが、ちょっとやそっとの療治では快《よ》くなりそうもなかった。
「思いきって、根本療治をしえもらわなくちゃ駄目だよ。」
浅井は、下《お》りものなどのした時、蒼い顔をして鬱《ふさ》ぎ込んでいるお増に言ったが、お増はやはりその気になれずにいた。
「前には平気で診てもらえたんですけれど、この節は、あの台のうえに上るのが、厭で厭でたまりませんよ。」
お増はそう言って、少しの間毎日通うことになっている、病院の方さえ無精になりがちであった。
伊豆へ立つときも、このごろ何かのことに目をさまして来たらしいお今のことが、気になってしかたがなかった。浅井の傍に、飯の給仕などをしている、処女らしいその束髪姿や、弾《はず》みのある若々しい声などが、お増の気を多少やきもきさせた。
お今に自分が浅井の背《せなか》を流さしておいた湯殿の戸の側へ、お増はそっと身を寄せて行ったり、ふいに戸を明けて見たりした。
「いい気持でしょう。」などと、お増は浅井の気をひいて見た。
浅井は「ふふ。」と笑っていた。
お今は何の気もつかぬらしい顔をして力一杯|背《せなか》を擦《こす》っていた。
お増と二人で行きつけの三越《
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