く動いていた。星の光も水々していた。
濡《ぬ》れた髪に綺麗に櫛《くし》を入れて、浅井の坐っているお膳のうえには、お今が拵えた料理が二、三品並んでいた。浅井は、この夏期の講習で、大分料理の品目の多くなったらしいお今の手際を、物珍しそうに眺めながら、もうちびちび酒を始めていた。
お今が一ト夏のうちに、めっきり顔や目などに色沢《つや》や潤いの出て来たことがお増の目に際立って見えた。
「お前さん、よっぽど幅がついたよ。」
「めっきり女ぶりがあがった。」
浅井も気持よげにその顔を眺めた。
「若いものはやっぱり違いますよ。私なぞ、いくら旅行したって駄目。」
「あら、あんな……田舎の女ばかり見ていらしったせいでしょう。私こんなに肥《ふと》って、どうしようかと思いますわ。」
お今は浅井の出した猪口にお酌をした。
三十一
冬になってから、お増は再び浅井に送ってもらって、伊豆の温泉《ゆ》へ入浴に出かけて行ったが、その時も長くそこに留まっていられなかった。
冷えがちな細い腰に、毛糸や撚《ネル》などの腰捲きを、幾重にも重ねていたお増は、それまでにも時々医者に診《み》てもらいなどしてい
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