その顔が、げっそり肉が落ちていた。
「私にくれるお金を、その人にくれて手を切らして下さい。」
 お柳はそう言って、肯《き》かなかった。
「そんならその人を、自宅《うち》へつれて来ておけばいいじゃありませんか。」
 お柳はそこまでも、終いに気が折れて来たのであった。
 お柳のそうした苦悶《くもん》を、お増は自分の胸にも響けて来るように感じた。お千代婆さんの家や、途中などで、二度も三度も見かけたことのある、お柳の蒼白い顔や、淋しい痩せぎすな後姿などが、まざまざ目に浮んで来た。
「やっぱりあなたが悪いんですよ。」
 お増は浅井の顔を眺めながら、そう思った。どんなことにも驚かないような優しい浅井の目は、怜悧《れいり》そうにちろちろ光っていた。
「兄貴ですか。そうさね。」小林はお増の顔を眺めて、
「かれこれ私くらいの年輩でしょう――四十七、八だね。収税吏もあまりいいところじゃないらしいよ。一度御馳走でもして、金の顔を見せさえすれば、それは請け合って綺麗に纏《まと》まる。金のほしいということは、ありあり見えすいているんだ。」
「お金はみんなその人の懐へ入ってしまうんでしょう。」お増は訊いた。
「ど
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