》に訣《わか》れてから、長いあいだ子供の世話をして、独りで暮して来た。浅井などに対すると、妙に硬苦《かたくる》しい調子になるようなことがあった。女の話などをすると、いらいらしい色が目に現われることさえあった。
宵《よい》っ張《ぱ》りの婆さんは寂しそうな顔をして、長火鉢の側で何よりも好きな花札を弄《いじ》っていた。
「差《さ》しで一年どうですね。」などと、お婆さんはお増の顔を見ると、筋肉の硬張《こわば》ったような顔をして言った。
「私それとなく神さんのことについて、今少し旦那《だんな》の脂《あぶら》を取ってやったところなのよ。」
お増は坐ると、いきなり言い出した。
「それで浅井さんはどう言っていなさるのです。」
「出すというんですよ。」
「どうかな、それは。書生時分から、あの人のために大変に苦労した女ですよ。それに今じゃとにかく籍も入って、正当の妻ですからの。」
「でも喘息が厭《いや》だから、出すんですって。」
「そんなことせん方がいいがな。あなたもそれまでにして入《はい》り込んだところで、寝覚めがよくはないがな。」
「私はどうでもいいの。あの人がおきたいなら置くがよし、出したいなら
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