た。
「お芳さんは、ああやっていて終《しま》いにどうするんでしょうね。」
 外へ出ると、お増は不安そうに訊いた。
「あの人、自分でお金をよけておくという風でもないのね。着物や何か、いくら拵えたって知れたものですわ。」
「それでも、まだ二年や三年はね。」浅井は薄笑いをしていた。
 二組の夫婦は、時々誘いあわして、浅草を歩いたり、相撲《すもう》見物に出かけたりした。そしていつも酔っ払って、隣の客に喰ってかかりなどする隠居のそばに、浅井もお増もはらはらしていたが、お芳は手※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《ハンケチ》を口にあてて、顔を赧《あか》らめながら、後でくすくす笑っていた。
「何がおかしいんだい。」
 隠居は額に筋を立てて、お芳を呶鳴《どな》りつけた。それがまたおかしいといって、お芳は浅井夫婦と顔を見合わせて腹を抱えた。

     二十三

「私しばらくのあいだお宅に御厄介になっていてもよくて?」
 月が代ってから、痔《じ》に悩んでいた浅井が、伊豆《いず》の方へ湯治に行った留守に、お雪が不断着のままで、ふとある日お増のところへやって来た。
 お雪は前の家にいる時にも、青柳と喧嘩
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