中を狂人《きちがい》のように暴れまわったりした。
「そんな乱暴な真似をしなくとも話はわかる。」
浅井はようようのことで細君を宥《なだ》めて下に坐った。
細君は、髪を振り乱したまま、そこに突っ伏して、子供のようにさめざめと泣き出した。
跣足《はだし》で後から追いかけて来る細君のために、ようやく逃げ出そうとした浅井は、二、三町も先から、また家へ引き戻さなければならなかった。
宵のうちの静かな町は、まだそこここの窓から、明りがさしていたり、話し声が聞えたりした。
「どこまでも私は尾《つ》いて行く。」
細君はせいせい息をはずませながら、浅井と一緒に並んで歩いた。疲れた顔や、唇の色がまるで死人のように蒼褪《あおざ》めていた。寒い風が、顔や頸《くび》にかかった髪を吹いていた。
そんなことがあってから二、三日のあいだ細君は病人のように、床につききりであった。
「つくづく厭になってしまった。」
浅井はお増の方へ帰ると、蒼い顔をして溜息を吐《つ》いていた。
「まるで狂気《きちがい》だ。」
「しようがないね、そんなじゃ……。」
お増も眉を顰《ひそ》めた。
「しかたがないから、当分うっちゃっ
前へ
次へ
全168ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング