たいんですがね。」
婆さんは反物を手に取りあげて、見ていた。そして糸を切って、尺《さし》を出して一緒に丈を量《はか》りなどした。
「どうでしょう柄は。」
お増は婆さんの機嫌を取るように訊ねた。
「じみ[#「じみ」に傍点]でないかえ、ちっと。」
「私じみなものがいいんですよ。もうお婆さんですもの。」
お増は自分の世帯持ちのいいことに、自信あるらしく言った。
十二
浅井の細君が、ふとそこへ訪ねて来た。
「御免下さい。」
どこか硬いところのある声で、そういいながら格子戸を開けたその女の束髪姿を見ると、お増は立ちどころにそれと感づいた。細君は軟かい単衣《ひとえ》もののうえに、帯などもぐしゃぐしゃな締め方をして、取り繕わない風であった。丈の高いのと、面長《おもなが》な顔の道具の大きいのとで、押出しが立派であったが、色沢《いろつや》がわるく淋しかった。
細君は格子戸を開けると、見通しになっている茶の間に坐った二人の顔を見比べたが、傘《かさ》を持ったままもじもじしていた。
お増は横向きにうつむいていた。
「おやどなたかと思ったら、浅井さんの奥さんですかい。」
お千代婆さ
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