りを撫で廻しながら、起き上った。そして不思議そうに、じろじろとお増の顔を眺めた。
「どうもしばらく。」お増はあらたまった挨拶をした。
 青柳はきまりの悪そうな顔をして、お叩頭《じぎ》をした。
「ごらんの通りの廃屋《あばやら》で、……私もすっかり零落《おちぶ》れてしまいましたよ。」
「でも結構なお商売ですよ。」
「は、この方はね、好きの道だものですから、まあぽつぽつやっているんですよ。そのうちまた此奴《こいつ》の体を売るようなことになりゃしないかと思っていますがね。」
「もう駄目ですよ。」お雪は笑った。
 間もなく青柳は手拭をさげて湯に行った。

     七

「あの人随分変ったわね。頭顱《あたま》の地が透けて見えるようになったわ。」
 お増は笑いながら、青柳の噂をした。
「ああすっかり相が変ってしまったよ。更《ふ》けて困る困ると言っちゃ、自分でも気にしているの。それに私もっと、あの社会で幅が利くんだと思っていたら、からきし駄目なのよ。以前世話したものが、皆な寄りつかなくなっちゃったくらいだもの。」
「でも何でも出来るから、いいじゃないの。」
「いいえ、どれもこれも生噛《なまかじ》りだ
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