笑っていた。
「この暑いのに、よく出て来たわね。」
「何だかつまらなくてしようがないから、遊びに来たのよ。」
「へえ、お前さんでもそんなことがあるの。」
 お雪は火鉢の火を掻き起しながら、「あなたやあなたや。」と青柳を呼び起した。青柳はちょっと身動きをしたが、寝返りをうつと、またそのまま寝入ってしまった。
 お雪が近所で誂《あつら》えた氷を食べながら、二人で無駄口を利いていると、じきに三時過ぎになった。かんかん日の当っていた後の家の亜鉛屋根《トタンやね》に、蔭が出来て、今まで昼寝をしていた近所が、にわかに目覚める気勢《けはい》がした。
 お増は浅井の身のうえなどを話しだしたが、お雪は身にしみて聞いてもいなかった。
「へえ、あの人お神さんがあるの。でもいいやね。そんな人の方が、伎倆《はたらき》があるんだよ。」
「いくら伎倆があっても、私気の多い人は厭だね。車挽《くるまひ》きでもいいから、やっぱり独りの人がいいとつくづくそう思ったわ。」
 青柳が不意に目をさました。
「よく寝る人だこと。」
 お雪はその方を見ながら、惘《あき》れたように笑った。青柳は太いしなやかな手で、胸や腋《わき》のあた
前へ 次へ
全168ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング