幌《ほろ》のなかで、やはり男の心持などを考え続けていた。
 お雪の家では、夫婦とも昼寝をしていた。青柳は縁の爛れたような目に、色眼鏡をかけて、筒袖の浴衣《ゆかた》に絞りの兵児帯《へこおび》などを締め、長い脛《すね》を立てて、仰向けになっていた。少し離れて、お雪も朱塗りの枕をして、団扇《うちわ》を顔に当てながらぐったり死んだようになっていた。部屋のなかには涼しい風が通って近所は森《しん》としていた。鉄板《ブリキ》を叩《たた》く響きや、裏町らしい子供の泣き声などが時々どこからか聞えて来た。
「よく寝ていること。随分気楽だね。」
 お増は上へあがったが、坐りもせずに醜い二人の寝姿をしばらく眺めていた。
「いくら男がいいたって、私ならこんな人と一緒になぞなりゃしない。先へ寄ってどうするつもりだろう。」
 お増はそんなことを考えながら、火鉢の側へ寄って、莨を喫《ふか》していた。
「おや、お増さん来たの。」
 お雪はそう言って、じきに目をさました。
「大変なところを見られてしまった。いつ来たのさ。」
 お雪は襟を掻き合わせたり、髪を撫《な》であげたりしながら、火鉢の前へ来て坐った。
 お増はへへと
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