て来たが、お今の兄からも手紙が来たり、支度の入費が送られたりした。話が何のわだかまりもなく進んで行った。
 新しい着物が仕立てあがるたびに、浅井はお今を呼びにやって、座敷でそれを着せて眺めなどした。下座敷の明るい電気の下などで、お今はふっくらした肌理《きめ》のいい体に、ぼとぼとするような友禅縮緬《ゆうぜんちりめん》の長襦袢《ながじゅばん》などを着て、うれしそうに顔を熱《ほて》らせて立っていた。汚れた足袋をぬぎすてた足の爪《つま》はずれなどが、媚《なま》めいて見えた。
「いいいい。」
 浅井はこっちからその姿を眺めながら、声かけた。
「いいね、お今ちゃんは。」
 お増も傍から、うっとりした目をして、眺めていた。
「私なぞ一度もそんなことはなかったよ。」
「己もないな」
 浅井も傍から、溜息をついた。
「あなたはあったじゃありませんか。先のお神さんの時に。」
「ううん。」浅井は薄笑いをしていた。
「見惚《みと》れていちゃいけませんよ。」
 興奮したような浅井の目に、お増は気づきでもしたように、急いでそれを脱がした。

     五十五

「どうも有難うございました。」
 脱いだ着物をきちん
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