女中が一人殖えたり、田舎から托《あず》けられた、浅井の姉の子だという少年が来ていたりして、たまに傍《はた》から来ているお今が、軽い反感を覚えるほど賑やかであった。衆《みんな》は、宵のうちに下の座敷に集まって、このごろ取り寄せた蓄音器などに、笑い興じていた。最近の一ト夏で、めっきりおしゃまさんになった静子の様子も、変って来た自分の身のうえの心持を、お今の目に際立たせて見せた。
「お今ちゃんも、いよいよ室さんと御婚礼かな。」
 まだ晩酌の餉台《ちゃぶだい》を離れずにいる浅井は、避けてばかりいるようなお今が、ふとそこへ来て坐ると、そういって声かけた。お今は絡《から》みついて来る静子と、敷物などのしっとりした縁側にいた。
「室さんは、時々来るかね。」
 浅井は訊ねた。
「いいえ。」
 お今は今日もお増につれられて宿へ訪ねて来た室のことを訊かれるのが、くすぐったいようであった。
「少し都合があって、よそへ出してあるんですがね。」
 お増は初めそういって、お今の居所を室に明かすことも出来ずにいたのであったが、自分に絡《まつ》わりついて来るような、男の心持が、見ていても苦しそうであった。差し向いにい
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