うと思えばわけはないよ。罷《まか》り間違えば、警察の手を仮りることも出来るし、田舎を騒がして、突ッつきだすという方法もある。」そうも言って脅《おどか》した。
「そんならそうして捜したらいいでしょう。」
お増は言い張ったが、やはり隠し通すことが出来なかった。室《むろ》の方の話を纏めるにしても、浅井の力を借りないわけに行かなかった。
居所《いどころ》を知らさないで、お今が浅井のところへ出入りするようになったのは、それから間もなくであった。
五十三
「姉さんのところへ来ると、ほんとに気がせいせいしてよ。」
気づまりな宿の二階に飽きて、お増の方へ遊びに来たお今は、道具などに金のかかった綺麗な部屋のなかや、掃除の行き届いた庭などを眺めながら言った。袖垣《そでがき》のところにある、枝ぶりのいい臘梅《ろうばい》の葉が今年ももう黄色く蝕《むしば》んで来た。ここにいるうちに、よく水をくれてやった鉢植えの柘榴《ざくろ》や欅《けやき》の姿《なり》づくった梢《こずえ》にも、秋風がそよいでいた。近ごろ物に感傷しやすいお今の心は、そんなものにもやるせない哀愁をにじませていた。浅井の家では、若い
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