ろつや》が、お増にはうらやましいようであった。茶の間へ坐り込んで、厭な内輪ばなしなどに※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《とき》を移していたお増は、行った時とは、まるで別の人のような心持で、電車に乗った。
四十九
お増は、浅井がもう帰っている時分だと思うと、電車のなかでも気が急《せ》くのであったが、隠居にいわれたことなどが、繰り返し考え出された。
「今のうちにお今さんを、どこかへ出しておしまいなさい。ことによったら、当分のうちどこぞ私の親類へお預かりしてもようがすよ。」
隠居は相変らず、酒気を帯びた顔を振り立てて言ってくれたのであった。
そんなことには何の意見も挟《はさ》まないお芳は、時々顔を赧《あか》らめて、お増の話に応答《うけこたえ》をしていた。
「お今さんも可哀そうですな。お婿さんが欲しいでしょうに、その金満家の子息《むすこ》さんと、一緒にしてあげたらどうです。」
お増は退《ど》けてしまってからの、若い女の体の成行きも考えてやらないわけに行かなかった。自分の良人のしたことを、田舎のお今の兄などに、知られるのも厭であった。単純に、二人の所業を憎んでばか
前へ
次へ
全168ページ中135ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング