大きなもので酒を呷《あお》ったり、気の向かない時には、小っぴどく客を振り飛ばしなどした。二人とも、今少し年が若かったら、情死もしかねないほど心が爛《ただ》れていた。傍で見ているお増などの目に凄《すご》いようなことが、時々あった。
そこを出るとき、お雪の身に着くものと言っては、何にもなかった。箪笥《たんす》がまるで空《から》になっていた。以前ついていた種のいい客が、一人も寄りつかなくなっていた。お雪は着のみ着のままで、男のところへ走ったのであった。
浅草のある劇場の裏手の方の、その家を初めて尋ねて行った時、青柳の何をして暮しているかが、お増にはちょっと解らなかった。
「良人《うち》はこのごろ妙なことをしているんだよ。」
お雪はお増を長火鉢の向うへ坐らせると、いきなり話しだした。見違えるほど血色に曇《うる》みが出来て、髪なども櫛巻《くしま》きのままであった。丈《たけ》の高い体には、襟《えり》のかかった唐桟柄《とうざんがら》の双子《ふたこ》の袷《あわせ》を着ていた。お雪はもう三十に手の届く中年増《ちゅうどしま》であった。
「へえ、何しているの。」
などとお増は、そこへ土産物《みやげも
前へ
次へ
全168ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング