ずく》の垂れて来るのをうるさがる力もないほど、体が弱っていた。
濛々《もやもや》した濃い水蒸気のなかに、淋しげな電燈のつきはじめるころに、今つけて行った体温表などを眺めていた浅井は、静子に別れを告げて、そっと室を出て行った。
「翌日《あした》父さんがまたいいものを買って来てあげるからね、うるさくとも、湿布はちゃんとしなくちゃいけませんよ。」
浅井は帽子を冠ってから、また子供の顔を覗《のぞ》きながら言った。
「やっぱり自分の子なのかしら。」
いつも思い出す隙もなしに暮して来た疑問が、こんな時のお増の胸に、また考えられて来た。血をわけない子供に、こうした自然の愛情の湧くものかどうかの判断が、子を産んだ経験のない自分には、つきかねるように思えた。
「この子の母親が見たければ、いつでも己が紹介する。」
浅井は東京附近の田舎にいる、その女のことを言い出したが、そんな女と往来《ゆきき》して、静子に里心の出るのが、お増自身にも好ましいこととは思えなかった。
「お今ちゃんを、すぐこっちへよこして下さいよ。」
お増は出て行く浅井に、ドアの外まで顔を出しながら言いかけた。二人は病床の傍で、看護婦
前へ
次へ
全168ページ中122ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング