》な日を送ろうとは思っていなかった。小遣いの使い方なども、締っていた。
「あなたの収入はこの節いくらあるんですよ。」
お増は浅井に時々そんなことを訊《たず》ねた。
浅井の収入は毎月決まっていなかった。
「家の生活《くらし》は、いくら費《かか》るんですよ。」
お増は、それも気になった。
「さあ、そいつも決まっていないね。しかし生活《くらし》には何ほどもかかりゃしない。ただ彼奴《あいつ》は時々酒を飲む。それから余所《よそ》へ出て花をひく。それが彼《あれ》の道楽でね。」
「たまりゃしないわ、それじゃ。あなたのお神さんは、きっと何かにだらしがないんですよ。」
浅井も、それには厭気がさしていた。
「私なら、きっときちんとして見せますがね。」
お増は自信あるらしく言った。そしてしばしば生活の入費の計算などをして見るのであった。それがお増には何より興味があった。
「おや、人の家の生活費《くらし》の算盤《そろばん》をするなんて自分のものにもなりゃしないのに。莫迦莫迦《ばかばか》しい、よそうよそう。」
お増は、そう言ってつまらなさそうに笑い出した。
五
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