来たのは、翌年《よくとし》の一月も十日を過ぎてからであった。
 親や兄の意志一つで、すっかり取り決められてしまった縁談が、お今の思いどおりに、壊《こわ》されそうもない事情が、最初の手紙でわかっていたが、談《はなし》の長引くうちに、先方の親たちの気の変って来たような様子が、後の音信《たより》でほぼ推測された。お今の家よりも、身代などのしっかりした嫁の候補者が、他からも持ち込まれて来た。前にしかけた談《はなし》で、かなり親たちの気に入った口も一つ二つはあった。
「……縹緻《きりょう》ばかりやかましく言う人だそうですから、これまでにもいくたびとなく、世話人を困らせたのだそうです。私はその人と見合いもしましたが、どんな人でしたかよくも見ませんでした。見合いは媒介人《なこうど》の家でしたのでしたが、私は目をつぶって、その人と結婚することに決心しました……。」
 そんなことが、初めのうち手紙に書かれてあった。
「……媒介人《なこうど》の無責任から、話に少し行違いが出来たのだそうでございます。そんな財産家のうちへ、私を世話しようとしたのが、頭から間違っていたのです……。」
 暮に来た手紙には、そんな
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