は――私と私の子供達をも含めて、みんな私の父から発生した種族であつた。多少幸不幸の差はあるにしても、一様にどこかへ紛れこんで生きて来、生きつゝある訳であつた。私自身お上品ぶつた芸術家の矜《ほこ》りなんかは、疾《とつ》くにどこかへ吹飛んで、一人の人間として、何か大衆のなかに働いてゐる人の安らかさを思ふやうになつてゐた。都会的の刺戟《しげき》でもなかつたら、生きることに疲れきつた私は、疾《とつ》くにへたばつてゐたに違ひなかつた。
 土蔵の屋根の上の棚に這《は》はしてある葡萄《ぶだう》の葉蔭から来るそよ風に吹かれながら、二階座敷に寝ころんでゐた私は、眠れもしないので、また下へおりて行つた。
 人が多勢仏間に立つてゐた。
「湯棺だ。」
 私も人々の後ろへ寄つてみた。嫂《あによめ》や姉や、死んだ妹の二人の娘や、姪たちは、手にハンケチをもつて、涙をふいてゐた。
「なむあみだ、なむあみだ……。」
 歔欷《すゝりな》くやうな合唱が、人々の口から口に呟《つぶや》かれた。
 湯棺がをはると、今度は剃髪《ていはつ》が始まつた。法被《はつぴ》を着た葬儀屋の男が、剃刀《かみそり》を手にして、頭の髪をそりはじめた
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