《ちやぶだい》も同じ材の一枚板であつた。
私は又養嗣子夫婦の住居《すまひ》になつてゐる二階へあがつて行つた。総てこの家は、前に来たよりも、手広くなつてゐて、兄達老夫婦の階下の二間《ふたま》も、すつかり明るく取拡げられてゐた。
二階の一室には台湾で造つた見事な大きな箪笥が、二つ並んでゐた。そこにも内地では見られない装飾品が幾個《いくつ》かあつた。
「手狭なものですから、不用なものはみんな倉へ投げこんでおきます。」
私は私の軍人といふものに対する幼稚な概念からは、凡《およ》そ縁の遠い彼の生活気分を、不思議に思つた。いつか波のうへにゐるやうな、私の都会生活のあわたゞしさとは、似ても似つかないやうなものであつた。
彼が軍職を罷《や》めるといふことも、大分前から耳にしてゐたが、今は少し忙しさうであつた。
やがて下へ下りて来た。
「戦争はありますか。」
私はきいて見た。
「ありませんとも。」彼は寧《むし》ろ私の問ひを訝《いぶか》るやうに答ヘた。
私は踊り場のことを考へてゐた。昨夜料理屋の女中にきいて、この町にも一箇所踊れるところがあることを知つてゐた。
私は何かしら行動が取りたくな
前へ
次へ
全21ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング