なく怠屈で無意味であつた。
目の前の餉台《ちやぶだい》にあるお茶道具のことから、話が骨董《こつとう》にふれた。ちやうどさういふ趣味をもつてゐる養嗣子が、先刻《さつき》から裂《きれ》で拭いてゐた鍔《つば》を見せた。私が見ても、彫刻の面白い、さうざらに見つからない品であつた。鉄の地肌も滑《なめ》らかで緻密《ちみつ》であつた。
「これあ実際掘り出しものですぜ。」養嗣子はせつせと裂で拭いては、翫味《ぐわんみ》してゐた。
「いくらで買つて来たのかい。」兄は微笑してゐた。
「お父さんはいくらだとお思ひになります。」
「さあな。」
養嗣子は又隣県にゐたとき、兵士の家から安く譲りうけた大小そろつた刀を倉から取出して来て、袋の紐《ひも》を釈《と》いた。作りは凝《こ》つたものであつた。私はその大きい方を手に取つて、鞘《さや》を払つてみた。好い刀を見ることは、私も嫌ひではなかつた。しかしその刀が、何《ど》の程度のものかは、わからなかつた。
この部屋の壁にかゝつてゐるのは、彼が赴任してゐた台湾|土産《みやげ》の彫刻物であつた。そこに台湾の名木で造られた茶箪笥《ちやだんす》があつた。気がついてみると、餉台
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