夫人と三人の子供達と一緒に同棲《どうせい》することになつて、兄夫婦は総てのものを彼等に譲り渡してしまつたので、何か以前ほどの親しみを感じては悪いやうな気がした。
兄は長いあひだ委《まか》されてゐた礦山をおりて、こゝで静かに老後を過してゐた。勉学に耽《ふけ》りすぎて、肋膜《ろくまく》をわづらつた上の孫は、もう十九であつた。中佐である養嗣子《やうしし》の顎鬚《あごひげ》には、少し白い毛が交つてゐた。久しく逢《あ》はなかつた嫁さんは、身装《みなり》もかまはずに、肥つた体を忙しく動かして、好きマダム振りを発揮してゐた。
数年前に重患にかゝつた兄は、健康は健康だつたが、足が余り確かでなかつた。嫂も※[#「兀+王」、第3水準1−14−62]弱《ひよわ》い方であつたが、最近内臓に何か厄介な病《やまひ》が巣喰つて来た。切開が唯一の治療方法であつたが、年を取つてゐるので、薬物療法をとることにしてゐた。
兎に角前年私か来たときから見ると、家庭がひどく賑《にぎ》やかで、複雑になつてゐた。もう老人達だけの家庭ではなくなつてゐた。家とか財産とかがある場合に、人はやつぱりそれの譲受主を決めておかなければなら
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