骸《から》などがだらしなく散らばっていた。
「まアいい、大丈夫今に行くで……。」正体なく眠っている叔父は、顎をがくがくさせながら、お庄の顔をじろりと見たきりで、長い体をぐらりと横へ引っくら返った。
お庄はそこへ俥をおいて、ついでに近所の髪結のところへちょっと声をかけてから家へ帰った。
死んだという電報が、八時ごろにお庄の髪を結っているところへ舞い込んだ。
「それじゃやっぱりそうだったんだ。」と、母子は幾度も電報を読み返した。
母親は気忙しそうに起ち上ったが、さしあたって何をするという考えも思い浮ばなかった。お庄は急いで合せ鏡をしながら、紙で頚《えり》などを拭いて、また叔父のところへ駈けつけた。
その家では、衆《みんな》がぞろぞろ起きて、脹《は》れぼッたいような顔をして茶の室《ま》へ集まった。
叔父は内儀《かみ》さんの汲《く》んでくれた茶を飲みながら、電報の時間附けなどを見ていたが、するうちにお庄と一緒に家を出た。主《あるじ》夫婦も、着換えをして後から続いた。
衆《みんな》が病院へ駈けつけた時分には、死骸はもう死亡室の方へ移されてあった。げっそり嵩《かさ》の減ったような叔母の死骸には、白い布《きれ》が被《か》けられて、薄い寝台の敷物のうえに、脚を押っ立てながら、安らかに臥《ね》かされてあった。母親は皆の顔を見ると、また泣き出した。そして側へ寄って死者の冷たい顔から、白い布《きれ》を取り除けた。衆《みんな》は寄ってその顔を覗き込んだ。
四十八
「真実《ほんとう》にあっけないもんでござんした。」と、母親は目を擦《こす》りながら言い立てた。
「すっと息を引き取って行くところを、お医者さまたちは、傍に多勢立って黙って見ておいでなさるだけのものでございましたよ。それでいよいよ目を落してしまったところを見届けると、また黙って、各々《めいめい》すいと出ておいでなすってね。それに平常《いつも》はあんなに多勢入り交り立ち替り附いていて下すったのに、あいにく今朝は真《ほん》の私一人きりでね。」と、母親は後の方に立っているお庄の結立ての頭髪《あたま》や、お化粧をして来た顔に目をつけた。
「何のために使いをして下すっただか、こっちじゃ今目を落すという騒ぎだのに、行けば行《い》たきりで、気長にお洒落《しゃれ》なぞなすっておいでなさるでね。」母親はお庄に繰り返し繰り返し厭味を言った。
お庄も少し逆上《のぼ》せたようになっていた。そして自分は自分だけの理窟を言った。人中にいるのに、そう姿振《なりふ》りにかまわないわけにも行かないと思った。自分の身じんまくもする代りに、病人の看護も、長い間まだしもよくして来た方だとも思った。
お庄は理も非も判《わか》らないような老婦《としより》の愚痴に終《しま》いに笑い出した。
吊り台で、死骸が担ぎ出されるまでには、大分時間がかかった。そのころにはまだ温《あたた》か味《み》の通っている死人の腹部も、だんだん冷えて来た。家を出るとき、声をかけて来た手伝いの人たちもそれぞれ集まって来た。中には叔父も資本の幾分を卸して、車を五、六十台ばかり持って、挽子《ひきこ》に貸し車をしている安という物馴れた男もいて真先に働いた。
「小崎さん、患者さんの代りに、あなたの紀念の写真を一枚|撮《と》って下さいな。」中ごろから替って来た気のやさしい上方産《かみがたうま》れの看護婦が、病室を取り片着けているお庄の傍へ寄って来て言いかけた。お庄は夜も昼も聞かされた病人の唸り声が、まだ耳についているようであった。
お庄は気忙しいなかで、叔父に断わって看護婦と一緒に向うの写真屋へ行った。看護婦の望みで、母親にも勧めたが、母親の心はそれどころではなかった。
やがてお庄は積めるだけの物を、蹴込みに積んで、母親と一緒に一と足先に病院を引き揚げた。
格子戸や上り口の障子を外して、吊り台を家のなかまで持ち込んだのは、午後の三時過ぎであった。叔父はこれまでに丸山の主《あるじ》や糺に手伝ってもらって、死亡の報知《しらせ》を大方出してしまった。病院の帰りに、電話や電報を出した口も少しはあった。その中に、墨西哥《メキシコ》公使館の通弁をしているという仏の従弟《いとこ》に当る男などもいた。
「すみませんが、六尺を一本ずつ切って戴きたいもんで。」安公は座敷に蓙《ござ》を敷いて、仏に湯灌を使わそうとするとき、女連《おんなれん》の方へ声かけた。吊り台から移された死骸は屏風の蔭に白い蒲団の上に臥《ね》かされてあった。
晒木綿《さらしもめん》を買いに、幸さんが表へ飛び出して行った。
女連は、別の部屋の方で、経帷子《きょうかたびら》や頭陀袋《ずたぶくろ》のようなものを縫うのに急がしかった。母親はその傍でまた臨終の時のたよりなかったことを零《こぼ》しは
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