三十四

 小野の刑期が、二年と決まった通知が来てから、お国の様子が、一層不穏になった。時とすると、小野のために、こんなにひどい目に逢《あ》わされたのがくやしいと言って、小野を呪《のろ》うて見たり、こうなれば、私は腕一つでやり通すと言って、鼻息を荒くすることもあった。
 お国にのさばられ[#「のさばられ」に傍点]るのが、新吉にとっては、もう不愉快でたまらくなって来た。どうかすると、お国の心持がよく解ったような気がして、シミジミ同情を表することもあったが、後からはじきに、お国のわがままが癪《しゃく》に触《さわ》って、憎い女のように思われた。お作が愚痴を零《こぼ》し出すと、新吉はいつでも鼻で遇《あしら》って、相手にならなかったが、自分の胸には、お作以上の不平も鬱積《うっせき》していた。
 三人は、毎日|不快《まず》い顔を突き合わして暮した。お作は、お国さえ除《の》けば、それで事は済むように思った。が、新吉はそうも思わなかった。
「どうするですね、やっぱり当分田舎へでも帰ったらどうかね。」と新吉はある日の午後お国に切り出した。
 お国はその時、少し風邪《かぜ》の心地で、蟀谷《こ
前へ 次へ
全97ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング