新世帯
徳田秋声

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)新吉《しんきち》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)飯|喰《く》う隙《ひま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「兀+王」、第3水準1−47−62、36−上段−8]
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     一

 新吉《しんきち》がお作《さく》を迎えたのは、新吉が二十五、お作が二十の時、今からちょうど四年前の冬であった。
 十四の時豪商の立志伝や何かで、少年の過敏な頭脳《あたま》を刺戟《しげき》され、東京へ飛び出してから十一年間、新川《しんかわ》の酒問屋で、傍目《わきめ》もふらず滅茶苦茶《めっちゃくちゃ》に働いた。表町《おもてちょう》で小さい家《いえ》を借りて、酒に醤油《しょうゆ》、薪《まき》に炭、塩などの新店を出した時も、飯|喰《く》う隙《ひま》が惜しいくらい、クルクルと働き詰めでいた。始終|襷《たすき》がけの足袋跣《たびはだし》のままで、店頭《みせさき》に腰かけて、モクモクと気忙《きぜわ》し
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