うせ死んでるんだから、なまじい顔でも見ちゃ、かえっていい心持がしねえだろうから、見ない方が優《まし》だという考えで……それにあのころは、小野の公判があるんで、東京から是非もう一人弁護士を差し向けてほしいという、当人の希望《のぞみ》だったもんだから、お国と二人で、そっちこっち奔走していたんで……友達の義理でどうもしかたがなかったんだ。」といいわけをした。
「それならせめて初七日にでもいらして下されば……。」とお作は目に涙を一杯溜めて怨んだ。「それにあなたは、お国さんのことと言うと、家のことはうっちゃっても……。」と口の中でブツブツ言った。
 これが新吉の耳には際立《きわだ》って鋭く響く。むろんお国は今でも宅《うち》へ入り浸っている。一度二度|喧嘩《けんか》して逐《お》い出したこともあるが、初めの時はこっちが宥《なだ》めて連れて帰り、二度目の時は、女の方から黙って帰って来た。連れて来たその晩には、京橋で一緒に天麩羅屋《てんぷらや》へ入って、飯を食って、電車で帰った。表町の角まで来ると、自分は一町ほど先へ歩いて、明るい自分の店へ別々に入った。何の意味もなかったが、ただそうしなければ気が済まぬ
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