に泡《あわ》を溜《た》めて説き勧めた。
新吉は帳場格子の前のところに腰かけて、何やらもの足りなそうな顔をして聴《き》いていたが、「じゃ貰おうかね。」と首を傾《かし》げながら低声《こごえ》に言った。
「だが、来て見て、びっくりするだろうな。何ぼ何でも、まさかこんな乱暴な宅《うち》だとは思うまい。けど、まあいいや、君に任しておくとしましょう。逃げ出されたら逃げ出された時のことだ。」
「そんなもんじゃありませんよ。物は試《ため》し、まあ貰って御覧なさい。」
和泉屋はほくほくもので帰って行った。
それから七日ばかり経ったある晩、新吉の宅《うち》には、いろいろの人が多勢集まった。前《ぜん》の朋輩が二人、小野という例の友達が一人――これはことに朝から詰めかけて、部屋の装飾《かざり》や、今夜の料理の指揮《さしず》などしてくれた。障子を張り替えたり、どこからか安い懸け物を買って来てくれなどした。新吉の着るような斜子《ななこ》の羽織と、何やらクタクタの袴《はかま》を借りて来てくれたのも小野である。小さい口銭《コンミッション》取《と》りなどして、小才の利《き》く、世話好きの男である。
料理の見積り
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