こい》れを抜いて莨を吸い出した。
 「君の評判は大したもんですぜ。」と和泉屋は突如《だしぬけ》に高声《たかごえ》で弁《しゃべ》り出した。「先方《さき》じゃもうすっかり気に入っちゃって、何が何でも一緒にしたいと言うんです。」
「冷評《ひやか》しちゃいけませんよ。」と新吉はやっぱりザクザクやっている。気が気でないような心持もした。
「いやまったくですよ。」と和泉屋は反《そ》り身になって、「それで話は早い方がいいからッってんで、今日にでも日取りを決めてくれろと言うんですがね、どうです、女も決して悪いて方じゃないでしょう。」と和泉屋は、それから女の身上持ちのいいこと、気立ての優しいことなどをベラベラと説き立てた。星廻りや相性のことなども弁じて、独《ひと》りで呑み込んでいた。支度《したく》はもとよりあろうはずはないけれど、それでもよかれ悪《あ》しかれ、箪笥《たんす》の一|棹《さお》ぐらいは持って来るだろう。夜具も一組は持ち込むだろう。とにかく貰って見給え、同じ働くにも、どんなに張合いがあって面白いか。あの女なら請け合って桝新《ますしん》のお釜《かま》を興しますと、小汚《こぎたな》い歯齦《はぐき》
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