って、今度は莨《たばこ》を喫《す》い出した。そうして気忙しそうに時計を引き出して、「もう四時だ。」
「マア、あなたようござりましょう。春初めだからもっと御ゆっくりなすって……そのうちには兄も帰ってまいります。」と母親は銚子を替えに立った。
 二人とも黙ってうつむいてしまった。障子の日が、もう蔭ってしまって、部屋には夕気《ゆうけ》づいたような幽暗《ほのぐら》い影が漂うていた。風も静まったと見えて、外はひっそとしていた。
「今日は、真実《ほんとう》にいいんでしょう。」お作はおずおず言い出した。
「商人が家《うち》を明けてどうするもんか。」と新吉は冷たい酒をグッと一ト口に飲んだ。
 それからかれこれ一時間も引き留められたが、暇《いとま》を告げる時、お作は低声《こごえ》で、「お産の時、きっと来て下さいよ。」と幾度も頼んだ。
 店頭《みせさき》へ送って出る時、目に涙が一杯溜っていた。

     二十七

 腕車《くるま》がステーションへ着くころ、灯《ひ》がそこここの森蔭から見えていた。前の濁醪屋《どぶろくや》では、暖《あった》かそうな煮物のいい匂《にお》いが洩れて、濁声《だみごえ》で談笑してい
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