る労働者の影も見えた。寒い広場に、子守が四、五人集まって、哀れな調子の唄《うた》を謳《うた》っているのを聞くと、自分が田舎で貧しく育った昔のことが想い出される。新吉はふと自分の影が寂しいように思って、「己の親戚《みうち》と言っちゃ、まアお作の家だけなんだから……。」と独り言を言っていた。
汽車は間もなく出た。新吉は硬いクッションの上に縮かまって横になると、じきに目を瞑《つぶ》った。中野あたりまでとりとめもなくお作のことを考えていた。あまり可愛いと思ったこともないが、何だか深く胸に刻み込まれてしまったようにも思えた。そのうちに、ウトウトと眠ったかと思うと、東京へ入るに従って、客車が追い追い雑踏して来るのに気がついた。
飯田町のステーションを出るころは、酔《え》いがもうすっかり醒《さ》めていた。新吉は何かに唆《そその》かされるような心持で、月の冴《さ》えた広い大道をフラフラと歩いて行った。
店では二人の小僧が帳場で講釈本を読んでいた。黙って奥へ通ると、茶の室《ま》には湯の沸《たぎ》る音ばかりが耳に立って、その隅ッこの押入れの側で、蒲団を延べて、按摩《あんま》に腰を揉《も》ましながら、
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