》に当ってクヨクヨしていたって始まらないから、気晴しにこうやってお手伝いしているんです。春が来たって、私は何の楽しみもありゃしない。」
「だが、そうやって私《あっし》のとこで働いていたってしようがないね。私は誠に結構だけれど、あんたがつまらない。」と新吉はどこか突ッ放すような、恩に被《き》せるような調子で言った。
 お国は萎《しょ》げたような顔をして黙ってしまった。そうして猪口を下において何やら考え込んだ。その顔を見ると、「新さんの心は私にはちゃんと見え透いている。」と言うようにも見えた。新吉も気が差したように黙ってしまった。
 しばらくしてから、女は銚子を持ちあげて見て、「お酒はもう召し食《あが》りませんか。」と叮寧《ていねい》な口を利く。
「小野さんも、この春は酒が飲めねえで、弱っているだろう。」と新吉はふと言い出した。
 それから二人の間には、小野の風評《うわさ》が始まった。お国はあの人と知っているのは、もう二、三年前からのことで、これまでにも随分いい加減な嘘《うそ》を聞かされた。そのころは自分もまだ一向|初《うぶ》である若い書生肌の男と一緒に東京へ出て来た。宅《うち》は田舎で百
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