を脱《と》って、コートの前を外《はず》した。頬が寒い風に逢《あ》って来たので紅味《あかみ》を差して、湿《うる》みを持った目が美しく輝いた。が、どことなく恐怖を帯びている。唇の色も淡《うす》く、紊《ほつ》れ毛もそそけていた。
「どうしたんです。」新吉は不安らしくその顔を瞶《みつ》めたが、じきに視線を外《そら》して、「マアお上んなさい。こんな汚いところで、坐るところもありゃしません。それに嚊《かか》はいませんし、ずっと、男世帯で、気味が悪いですけれど、マア奥へお通んなさい。」
「いいえ、どう致しまして……。」女はにっこり笑って、そっちこっち店を見廻した。
「真実《ほんとう》に景気のよさそうな店ですこと。心持のいいほど品物が入っているわ。」
「いいえ、場所が場所だから、てんでお話になりゃしません。」
 新吉は奥へ行って、蒲団を長火鉢の前へ敷きなどして、「サアどうぞ……。」と声かけた。
「お忙《せわ》しいところ、どうも済みませんね。」とお国はコートを脱いで、奥へ通ると、「どうもしばらく……。」と更《あらた》まって、お辞儀をして、ジロジロ四下《あたり》を見廻した。
「随分きちんとしていますわね。
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