それに何から何まで揃《そろ》って、小野なんざとても敵《かな》やしません。」と包みの中から菓子を出して、片隅へ推しやると、低声《こごえ》で何やら言っていた。
新吉は困ったような顔をして、「そうですかい。」と頭を掻きながら、お辞儀をした。
「商人も店の一つも持つようでなくちゃ駄目ね。堅い商売してるほど確かなことはありゃしないんですからね。」
新吉は微温《ぬる》い茶を汲《く》んで出しながら、「私《あたし》なんざ駄目です。小野君のように、体に楽をしていて金を儲《も》ける伎倆《はたらき》はねえんだから。」
「でもメキメキ仕揚げるじゃありませんか。前に伺った時と店の様子がすっかり変ったわ。小野なんざアヤフヤで駄目です。」と言って、女は落胆《がっかり》したように口を噤《つぐ》んだ。顔の紅味がいつか褪《ひ》いて蒼《あお》くなっていた。
十九
お国はしばらくすると、きまり悪そうに、昨日の朝、小野が拘引されたという、不意の出来事を話し出した。その前の晩に、夫婦で不動の縁日に行って、あちこち歩いて、買物をしたり、蕎麦《そば》を食べたりして、疲れて遅く帰って来たことから、翌日《あした》朝|
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