、お袋や兄貴に話をして、子供でも産んでしまったら、離縁話でも持ちあがるか、どうせこのままで収まりッこはありゃしない。どうでも勝手にするがいいや。」と自分で笑いつけた。モヤモヤする胸の中《うち》が、抑えきれぬという風も見えた。
「そうでもねえんさ。」と小野は自分で頷《うなず》いて、「女は案外我慢強いもんさ。こっちから逐《お》ん出そうたって、出て行くものじゃありゃしねえ。」
「どうして、そうでねえ。」新吉は目眩《まぶ》しそうな目をパチつかせた。「君にゃよくしてるし、客にも愛想はいいし、己ンとこの山の神に比べると雲泥《うんでい》の相違だ。」
二人顔を合わすと、いつでもこうした噂が始まる。小野はいかにも暢気《のんき》らしく、得意そうであった。小野が帰ってしまうと、新吉はいつでも気の脱けた顔をして、つまらなそうに考え込んでいる。何や彼や思い詰めると、あくせく働く甲斐《かい》がないようにも思われた。
忙《せわ》しい十二月が来た。新吉の体と頭脳《あたま》はもうそんな問題を考えている隙《ひま》もなくなった。働けばまた働くのが面白くなって、一日の終りには言うべからざる満足があって、枕に就くと、去年か
前へ
次へ
全97ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング