んの顔を見て、僕はオヤオヤと思ったくらいだ。」
「まったくだ。」新吉は淋しく笑った。「どうせ縹致《きりょう》なんぞに望みのあるわけアねえんだがね。……その点は我慢するとしても、彼奴《やつ》には気働きというものがちっともありゃしねえ。客が来ても、ろくすっぽう挨拶することも知んねえけれア、近所隣の交際《つきあい》一つ出来やしねえんだからね。俺アとんだ貧乏籤《びんぼうくじ》を引いちゃったのさ。」と新吉は溜息を吐《つ》いた。
「ともかく、もっと考えるんだったね。」と小野も気の毒そうに言う。「だがしかたがねえ、もう一年も二年も一緒にいたんだし、今さら別れると言ったって、君はいいとしても、お作さんが可哀そうだ。」
「だが、彼奴《やつ》もつまんねえだろうと思う。三日に挙げず喧嘩《けんか》して、毒づかれて、打撲《はりとば》されてさ。……己《おら》頭から人間並みの待遇《あつかい》はしねえんだからね。」と新吉は空笑《そらわら》いをした。
「其奴《そいつ》ア悪いや。」と小野も気のない笑い方をする。
「今度マアどうなるか。」と新吉は考え込むように、「彼奴《やつ》も己《おれ》の気の荒いにはブルブルしてるんだから
前へ
次へ
全97ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング