ツであった。新吉は七、八歳までは、お坊《ぼッ》ちゃんで育った。親戚《しんせき》にも家柄の家《うち》がたくさんある。物は亡《な》くしても、家の格はさまで低くなかった。
 けれど、新吉はそんなことにはあまり頓着《とんちゃく》もしなかった。自分の今の分際では、それで十分だと考えた。
 そのことを、同じ村から出ている友達に相談してから、新吉はようやく談《はなし》を進めた。見合いは近間の寄席《よせ》ですることにした。新吉はその友達と一緒に、和泉屋に連れられて、不断着のままでヒョコヒョコと出かけた。お作は薄ッぺらな小紋縮緬《こもんちりめん》のような白ッぽい羽織のうえに、ショールを着て、叔父と田舎《いなか》から出ている兄との真中に、少し顔を斜《はす》にして坐っていた。叔父は毛むくじゃらのような顔をして、古い二重廻しを着ていた。兄は菱《ひし》なりのような顔の口の大きい男で、これも綿ネルのシャツなど着て、土くさい様子をしていた。横向きであったので、新吉は女の顔をよく見得なかった。色の白い、丸ぽちゃだということだけは解った。お作は人の肩越しに、ちょいちょい新吉の方へ目を忍ばせていたが、新吉は胸がワクワクし
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