れ在所《ざいしょ》へ身元調べに行った。

     二

 お作の宅《うち》は、その町のかなり大きな荒物屋であった。鍋《なべ》、桶《おけ》、瀬戸物、シャボン、塵紙《ちりがみ》、草履《ぞうり》といった物をコテコテとならべて、老舗《しにせ》と見えて、黝《くろず》んだ太い柱がツルツルと光っていた。
 新吉はすぐ近所の、怪しげな暗い飲食店へ飛び込んで、チビチビと酒を呑《の》みながら、女を捉《とら》えて、荒物屋の身上《しんしょう》、家族の人柄、土地の風評などを、抜け目なく訊《き》き糺《ただ》した。女は油くさい島田の首を突き出しては、酌《しゃく》をしていたが、知っているだけのことは話してくれた。田地が少しばかりに、小さい物置同様の、倉のあることも話した。兄が百姓をしていて、弟《おとと》が土地で養子に行っていることも話した。養蚕時《ようさんどき》には養蚕もするし、そっちこっちへ金の時貸しなどをしていることも弁《しゃべ》った。
 新吉自身の家柄との権衡《けんこう》から言えば、あまりドッとした縁辺《えんぺん》でもなかった。新吉の家《うち》は、今はすっかり零落しているけれど、村では筋目正しい家《いえ》の一
前へ 次へ
全97ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング