新吉の心の平衡が破れて来る。
「……少し甘やかしておけア、もうこれだ。」と新吉は昼間火鉢の前で、お作がフラフラと居眠りをしかけているのを見つけると、その鼻の先で癪《しゃく》らしく舌打ちをして、ついと後へ引き返してゆく。
お作はハッと思って、胸を騒がすのであるが、こうなるともう手の着けようがない。お作の知恵ではどうすることも出来なくなる。よくよく気が合わぬのだと思って、心の中《うち》で泣くよりほかなかった。新吉の仕向けは、まるで掌《て》の裏《うら》を翻《かえ》したようになって、顔を見るのも胸糞《むねくそ》が悪そうであった。
秋の末になると、お作は田舎の実家《さと》へ引き取られることになった。そのころは人並みはずれて小さい腹も大分目に立つようになった。伝通院前の叔母が来て、例の気爽《きさく》な調子で新吉に話をつけた。
夫婦間の感情は、糸が縺《もつ》れたように紛糾《こぐらか》っていた。お作はもう飽かれて棄てられるような気もした。新吉はお作がこのまま帰って来ないような気がした。お作はとにかくに衆《みんな》の意嚮《いこう》がそうであるらしく思われた。
新吉は小使いを少し持たして、滋養の葡
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